Love Story

□第八話
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落ち着きかけた心臓が有り得ないスピードで波打ってる。





振り向けない後ろからはどんどんその存在を感じて来るのに、



どうしても振り返る事が出来なかった。








第八話









心が動けとどれだけ叫んでいても体が言うことを聞かない時が偶にある。
例えば言っちゃ駄目だと解ってるのに口が勝手に出ていたり、あまりの恐怖や衝撃で足が竦んだり…


ちなみに今回は、後者の方。





(ど、どうしよう……)



ヴォルフラムが樹に入ってきてしまった。濡れた上着から水分を取っている様でバサバサと激しい音が聞こえる。


困った。
本当に困ってしまった。


いっそヴォルフラムが振り向く前に叔母さんの所まで一気に走って姿を眩まそうか…


でもこの樹の周りには囲いがあるし、行くならヴォルフラムの真横を通らないといけない。

横顔を見られて気付かれない可能性は一体どれくらいあるのかな……



(否、そもそも無理だろう)



………。


ピンチをどう乗り越えるのかを考えるのが捕手なのにめちゃくちゃ情けないなおれ。


仕方ない、




おれはなるべく存在を消して樹の裏に隠れてしまおうと荷物をそっと抱えた。


顔を合わせて何を言えば良いのかわからないし気付かれないうちになら大丈夫、なはずだ。




けどその時、服の水滴を払う音が止んだ。


「…酷い雨だ、そうは思わないか?」

(ひッ……!!)



まさか声を掛けられるとは思わなくて思わず体が震えた。

っ馬鹿、これじゃあ怪しまれるだろうが!


「……ん?」

案の定、というかこうなってしまっては当たり前なんだけど、返事しないおれの背中にビシビシと視線が注がれてくる。


頼むからこっち見んな、こっち見んなって!


「どうか…、したのか?」

横から覗こうとしてくるヴォルフラムに背を向け続けても限界がある事位わかってはいるんだけど、


出来る事ならどうかこのままおれに気付かない、で…




「もしかして…ユーリ、ではないか?」
























そうだった。
今日のおれはとことんツイてないんだったな、忘れてたよ。



「………ゃ、やぁヴォル、フラム」
「あぁやはり、ユーリじゃないか」
「奇遇だな。ははは…はは、」





偶然って恐ろしい。

笑って気まずさを誤魔化そうとしてみたけどちゃんと笑えてるのか自信がない。
悩んでいても何を喋れば良いかは解らず終いだし、逃げ場を無くして途方に暮れるばかりだ。




続く

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